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厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型
  • パワハラと認められなかったもの・パワハラを受けた人にも問題が認めれた裁判例
  • 相談対応における会社の責任についての裁判例

【第14回】
過失による不法行為責任及び派遣先会社の使用者責任

事案の概要

派遣労働者であった原告が、派遣先会社において、派遣先会社の従業員である上司からいじめ行為を受けたとして、派遣元会社及び派遣先会社に対し、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求した事案。

なお、本件では派遣元会社又は派遣先会社と原告との間の雇用契約の存在(雇い止めの違法性など)も別途争点となった。

判旨

原告(派遣労働者)は、派遣先である被告伊予銀行(以下「伊予銀行」という。)の(1)直接の上司Cからいじめを受けたこと、(2)支店長Dが原告に「慰労金明細書」を交付した際その裏面に「不要では?」という付箋が貼付されていたこと、(3)支店長Dが上司Cの行為を放置したこと、(4)人事部長Gがいじめに適切に対処しなかったことなどを理由として、伊予銀行に対し不法行為の使用者責任(民法715条)を、また、(5)被告派遣元会社に対し、いじめに対処しなかったことを理由とした債務不履行責任又は不法行為責任を追及した。

判旨は、(2)について、原審が違法でないとした判断を変更し、支店長Dの過失による不法行為が成立すると認定し、伊予銀行に対し、1万円の損害賠償を命じた(伊予銀行の支店長Dの使用者としての責任、民法715条)。

もっとも、(1)については原審と同様に、上司Cの行為は上司として不適切で非難に値するものではあるが、社会的相当性の見地からみて是認できない程度にまで違法性を有するとはいえない、(3)、(4)及び(5)については適切に対処しており違法でないとして、損害賠償義務の成立を認めなかった。

なお、本件は、最高裁に上告及び上告受理申立てがなされたが、いずれも民事訴訟法上の上告理由・上告受理の理由がないとして棄却及び上告不受理とされた(最高裁第二小法廷平成21年3月27日決定)。

解説

(1)いじめ行為

原告は上司Cによるいじめがあったと主張したところ、原審及び本判決は、上司Cが「おい、おまえ」などの粗暴な言動を用いたことを認定し、これが不適切であると評価したものの、原告が上司Cに反発するばかりで自らの態度を省みようとしなかったことなど一連の経緯に照らせば、上司Cの行為は違法とまではいえないとして、上司Cによる不法行為の成立を否定しました。

また、支店長D、人事部長G及び派遣元会社は、原告の訴えに対し、適切に対処しているとして、責任を認めませんでした。

(2)「不要では?」との付箋貼付行為

支店長Dが原告に慰労金明細書を手渡した際、その裏面には、支店長Dの字で「不要では?」と書いた付箋が貼付されていました。

この付箋貼付行為は、原告が支店長Dに対し、上司Cからいじめられていると訴えたため、上司C及び支店長Dが原告及びその家族を交え、話合いを行った日の8日後に発生したものであり、すでに原告と上司Cとの確執が明らかになっている時期の出来事でした。

原告は、付箋貼付行為につき、いじめを訴えた原告が伊予銀行にとって不要な人間であり、慰労金を払うに値しないと考えていることを示したものと主張しました。

原審は、支店長Dが問題の付箋を貼ったことは認めたものの、意図的な行為でないから不法行為は成立しないと判断しました。

一方、本判決は、支店長Dの付箋貼付行為が意図的であるとは認められないという点では原審と同様に判断しましたが、そうであったとしても、原告がいじめを受けていると訴えて改善を求めている時期に、「不要では?」との記載のある付箋を示したことは、「自己が支店において不要な人物であると思われていると考えさせるに十分なものであって、(原告に)大きな精神的苦痛を与えるものであることは容易に推認できる」として、「軽率」、「あまりに不注意な行為」であって、「社会的相当性を欠く」と断じました。 本事案は、事実の中身としては一審、二審でほとんど同様であったにもかかわらず、その評価が「一審は違法でない」、「二審は違法」と分かれたケースですので、微妙なケースといえ、注目に値します。

(3)派遣先会社の使用者責任

支店長Dの付箋貼付行為は、伊予銀行の職務として行われたものであるから、支店長Dの不法行為につき、使用者である伊予銀行が使用者責任(民法715条)を負うと判断されました。

原告は派遣労働者であり、派遣先である伊予銀行とは直接の雇用関係にありませんでした(原告は伊予銀行と直接の雇用関係があるとも主張していましたが、この主張は認められませんでした。)。しかし、直接の雇用関係になくとも、派遣労働者と直接に相対する従業員の行為が、派遣先会社の職務として行われる限り、派遣先会社は使用者責任を免れません。

コメント

一審、二審を通じ、原告自身の態度にも問題があったことを踏まえると、上司Cの言動は致し方ない面があり、不適切ではあるが違法とまではいえないとの判断になりました。

もっとも、上司としては、問題のある労働者に対しても、「おい、おまえ」などの粗暴な言動は不適切であり、慎むべきであったことを示唆しています。

支店長Dの行為が、労働者に不安や誤解、不快感を生じかねないことは明確です。不法行為は故意による場合のみならず、過失による場合にも成立し得ます。

認定された損害額はわずかに1万円でしたが、このような過失による行為であっても、本件のように違法・不当と判断されることもあります。上司は細心の注意を払って適切に労働者と接するように努めなければならないでしょう。

また、使用者は、派遣労働者であるか、直接雇用の労働者であるかにかかわらず、いじめや嫌がらせなどのハラスメント行為が行われることのないよう、適切かつ十分に対応すべきでしょう。

 

著者プロフィール

石上 尚弘(いしがみ なおひろ)
石上法律事務所 弁護士
1997年 弁護士登録 石上法律事務所開業