あかるい職場応援団
厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型
  • 過大な要求型
  • パワハラと認められなかったもの・パワハラを受けた人にも問題が認めれた裁判例

【第41回】
先輩社員のパワハラに対する会社の対応がパワハラ防止義務違反及び不法行為と判断された事案
飲酒後の先輩社員の自宅送迎中の交通事故について会社に何らかの責任を問うことはできないと判断された事案

結論

先輩社員のパワハラに対する会社の対応はパワハラ防止義務違反に当たるとともに、不法行為に当たる。

飲酒後の先輩社員の自宅送迎中の交通事故(以下「本件交通事故」という。)について、会社の職務の一環ということはできず、会社に何らかの責任を問うことはできない。

事案の概要

土木建築会社Yに養成社員として入社して道路工事の作業所(以下「本件作業所」という。)に配属されたTが本件作業所の先輩社員によるパワーハラスメントで肉体的精神的苦痛を被ったとして、Tの両親XらがY社に対して損害賠償の支払いを求めた事案。

なお、Tは、先輩社員Cらと居酒屋で飲酒後に、自ら車を運転して先輩社員Cらを自宅に送る途中、交通事故で先輩社員Cらと共に死亡した。また、上記養成社員とは、Y社において、一般の社員のように退職まで勤務することはなく、建設業を行うに当たって一人前になるよう養成を受け、概ね4、5年で退職し、その後は父親などが経営する建設会社で跡継ぎとなる者をいう。

判決のポイント

1.先輩社員によるパワーハラスメント

先輩社員Cは、仕事に打ち込んでいたTに対し、「お前みたいな者が入ってくるで、M部長がリストラになるんや!」などと理不尽な言葉を投げつけたり、TがY社の二次下請である建設会社の代表取締役の息子であることについて嫌みを言うなどしたほか、仕事上でも、新入社員で何も知らないTに対して、こんなことも分からないのかと言って、物を投げつけたり、机を蹴飛ばすなど、辛く当たっていた。

先輩社員Cは、Tに対し、今日中に仕事を片付けておけと命じて、ひとり遅くまで残業せざるを得ない状況にしたり、他の作業員らの終わっていない仕事を押しつけて、ひとり深夜遅くまで残業させたり、徹夜で仕事をさせたりしていた。

先輩社員Cは、Tに対し、勤務時間中にガムを吐いたり、測量用の針の付いたポールを投げつけてTの足に怪我を負わせたりした。

本件交通事故の前日、Tは徹夜でパソコン作業に当たっていたが、数量計算等を行っていたB工事長以外は帰宅し、Tの仕事を手伝うことはしなかった。A所長は、勤務時間中に度々パソコンゲームをしており、Tの仕事を手伝っていた様子は窺われない。

2.会社のパワハラ防止義務違反の有無

Tは、Y社に入社して2か月足らずで本件作業所に配属されてからは、上司から極めて不当な肉体的精神的苦痛を与えられ続けており、本件作業所の責任者であるA所長は何らの対応も採らなかったどころか、問題意識さえ持っておらず、その結果、Y社としても、何らTに対する上司の嫌がらせを解消するべき措置を採っていない。
⇒Y社の対応は、Y社の社員が養成社員に対してY社の下請会社に対する優越的立場を利用して養成社員に対する職場内の人権侵害が生じないように配慮する義務(パワーハラスメント防止義務)としての安全配慮義務に違反している。同時に、不法行為を構成するほどの違法な行為であるから、この点についても責任を負う。

3.飲み会に参加させたことについてのY社の責任の有無

本件交通事故当日、Tは、B工事長、先輩社員C、先輩社員D及び先輩社員Eとともにお好み焼き屋で飲食した後、先輩社員C及びEと居酒屋に行っているが、A所長は参加していないし、B工場長やDも居酒屋に入っていないことなどからすれば、Tが先輩社員Cらからパワーハラスメントを受けていたとしても、Y社の職務の一環として飲食に参加しなければならないといった強制力があったとまでは認めることはできない。Tが先輩社員Cらからの飲食の誘いを断り切れなかったとしても、それは、個人的な先輩からの誘いを断り切れなかったと解するほかなく、Tとしては、あくまで自由意思で参加したものというべきである。
⇒飲み会に参加させたことについてY社に何らかの責任を問うことはできない。

4.飲酒後の交通事故についてのY社の責任の有無

Tは、居酒屋での飲酒後に本件作業所に戻った時点で、先輩社員CやEから自宅まで車で送るよう求められたのに応じて自ら運転して先輩社員CやEをそれぞれ自宅まで送ることにしたものであるが、これについても、先輩・後輩の関係から断り切れなかったことは容易に想像されるが、これをY社の職務の一環であったということまではできない。
⇒Tが先輩社員CやEの求めに応じて飲酒運転をした結果、本件交通事故を起こしたことについても、Y社に何らかの責任を問うことはできない。

コメント

業務管理者がパワハラ防止義務の履行を怠れば、会社の同義務違反と同視される。

本判決のいうところのパワハラ防止義務は、職場内で人権侵害が生じないよう予測できる危険等を排除しうるに足りる人的物的諸条件を整えることに尽きると考えられますので、この整備を任務として社員の業務を管理支配する立場にある者(業務管理者)は、パワハラ防止義務の履行補助者に当たり、同管理者が同義務の履行を怠れば、会社のパワハラ防止義務違反と同視されることになると考えられます。

判文上必ずしも明確ではありませんが、本判決は本件作業所の責任者であるA所長の対応や問題意識を取り上げられていますので、A所長はY社のパワハラ防止義務の履行補助者に当たり、養成社員(二次下請の代表取締役の息子)というTの立場、Tの長時間残業の状況(A所長はTの父親から長時間残業の改善の要望を受けていた。)、先輩社員Cのパワーハラスメントの態様、本件作業所の人員体制の規模(6名程度)などから、先輩社員Cによるパワーハラスメントを認識していたか認識していないとしても当然予見して適切に対処すべきであったのにこれをしなかった点を捉えて、A所長のパワハラ防止義務の懈怠があったものとして、会社のパワハラ義務違反と同視したのではないかと考えます。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録