あかるい職場応援団
厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 身体的な攻撃型
  • 精神的な攻撃型
  • 人間関係からの切り離し型

【第43回】
警察署の課長らの行為が不法行為と判断された事案
警察署の課長らが個人として損害賠償責任を負うことはないと判断された事案

結論

M警察署のA課長らの行為は不法行為に当たる。

事案の概要

警視庁海技職職員として採用されてM警察署舟艇課で勤務する職員X(主事)が、同課のA課長らから職場で日常的に暴行や脅迫を含む嫌がらせ等を受けたとして、東京都及びA課長らに対して損害賠償の支払いを求めた事案。

判決のポイント

1.A課長らによるパワーハラスメント

本件ポスターの掲示
(一審判決によると、舟艇課室内に「欠格者」「この者とは一緒に勤務したくありません!」「舟艇課一同」等と記載されたXの顔写真付きポスターが掲示されていた。)本件ポスターの掲示は、試み出勤を経て復職を希望するXに対し、心理的に追いつめて圧力をかけ、辞職せざるを得ないように仕向けて放逐する目的で、Xの名誉を毀損し、Xを侮辱するために行われたことは明らかであって、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

A課長によるシンナーを用いた嫌がらせ
(一審判決によると、Xは、アルコール、シンナー及びアセトンなどの有機溶剤に対する接触性皮膚炎やアナフィラキシーショックを起こす可能性が高い体質であると診断されていたところ、A課長は、シンナーをXに示して「いい臭いすんな、ほら、この野郎、来い。」等と言い、Xから抗議を受けたが、「慣れる訓練しろよ。毎日やってやる。」等と答え、その後、「辞表をもってこい。命令だよ。」等と言った。)Xに対し、シンナーを用いた嫌がらせを行うことを示して辞職を強要したものであって、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

シンナーを用いた嫌がらせ
(一審判決によると、舟艇課更衣室内にシンナーが撒布された。)Xが辞職するように仕向けるために、執務環境が作為的に悪化されたままにしてシンナーを除去すべき義務(M署の庁舎の管理権者及びこれを補助する幹部職員において、Xのロッカーに撒布されたシンナーを除去して、Xが残留するシンナーのガスや臭気による健康被害を受けないように配慮して執務環境を良好に保つべき義務)を故意に怠ったものと推認することができ、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

A課長の週刊誌への記事掲載を告げる行為
(一審判決によると、A課長は、Xに対し、Xが「早く次の職を見付けて辞めた~い。(もう警察、都交通局はヤダー)」、「操船は可能な限りしたくない。」「S田PB(注:ある交番を指すと思われる。)は、ヤダ・ヤダ・ヤダ・ヤダ・ヤダ」との落書きをしたけい船場活動記録表を示し、これを知り合いの週刊誌の編集者に見せてXの顔写真も渡せば、Xの記事が週刊誌に載る旨述べた。後日、A課長は、Xに対し、「今週中に書かすぞ。」「P誌、締切だよ。」「辞職願い、今週いっぱいに持ってこい、この野郎。」等と、Xに関する週刊誌の記事の校正刷りの締切が今週中であり、M署を辞めなければXの記事を週刊誌に載せる旨述べた。)A課長は、Xが辞職するように仕向ける意図で、Xの名誉に対し害悪を加えることを告知したものであって、これは脅迫に該当し、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

Xの警備艇における見張り業務、T派出所における泊まり勤務
(一審判決によると、Xは、警備艇に乗ってM署とT派出所間を往復する際、見張りとして船のデッキ上で荷物を持って立つよう指示され、激しい雨の日でも船内に入れてもらえなかった。また、Xが2月にT派出所で泊まり勤務に就いた際、ストーブ2台のタンクには灯油が入っておらず、補給用の灯油も全て空になっており、エアコンも使用できない状態であった。)組織の計画的、統一的な意思により、Xの執務環境をわざと劣悪にすることによって退職するように仕向けたものと推認することができ、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

F主任のXに対する言動、E主任らによる拡声器を用いた嫌がらせ
(一審判決によると、F主任、E主任及びI主任は、Xも乗船していた警備艇の拡声器を用いて、それぞれ、「この船には馬鹿が乗っています。」等、「Xの税金泥棒、辞めちゃえよ。」等、「X、税金泥棒、恥を知れ。」等と発言した。)F主任、E主任及びI主任が、退職するように仕向ける目的で、本来はそのような目的で使用してはならない拡声器を不正に用いてXの名誉を毀損する行為をしたものというべきであって、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

F主任の唾を吐きかける行為
(一審判決によると、F主任は、船艇課更衣室等で、Xに対し、数回唾を吐きかけたほか、総員参集訓練の一環のジョギングの際にも唾を吐きかけた。)F主任は、退職するように仕向ける目的で、Xに対する嫌悪感を示してXの人としての尊厳を否定してXを侮辱する態度を唾を吐き掛けるという下劣な行為で示したものというべきであって、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

B課長代理の火のついたタバコを当てる行為
(一審判決によると、B課長代理は、話し掛けてきたXに対し、「消えろ早く。」等と言い、「タバコの火でも擦り付けてやろうか。」、「税金泥棒早く消えろ。」等と言い、火のついたタバコをXに当てた。)B課長代理は、退職するように仕向ける目的で、Xに対する嫌悪感を示してXを侮辱したものというべきであって、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

E主任による警備艇の乱暴な操縦
(一審判決によると、E主任が航行中に急転蛇させたため、見張り業務で後部デッキ上に立っていたXは転倒し、通院加療約1か月間を要する頭部打撲、左前腕打撲・挫創、左第5指打撲、頸椎捻挫の傷害を負った。)E主任は、退職するように仕向ける目的で、Xが乗船している警備艇を急転舵させてXを転倒させてXに傷害を負わせたものと推認することができる。E主任の上記行為は、Xの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するもので、不法行為が成立する。

コメント

上司らの行為がパワハラに当たるか否かは当該行為の具体的状況により個別に判断される。

一審判決は、A課長らの行為について、職場からのXの排除を図るために、職場の上司とこれに加担した同僚らによる不法な有形力の行使や侮蔑的言動等を伴う違法な退職の強要及び嫌がらせ(ハラスメント)並びに就業環境配慮義務違反に当たるというべきであって、その中には個々的にみれば損害賠償責任を生じさせるほどの違法性を帯びたものとは断じ難いものも存しているとはいえ、これらも含めて全体としてXに対する不法行為を構成すると判示しました。しかし、本判決は、各行為の具体的状況を踏まえて、行為ごとに不法行為の成否を検討し、例えば、A課長がXのネクタイを掴んで引っ張った行為について、医師の告知内容を前提とすればXに対し分限免職処分がされることになる認識の下、Xが辞職願の提出に応じて印鑑を持参してM署に登庁した場面で、Xにとって分限免職処分がされるよりも辞職願を提出する方が有利であるとの趣旨で辞職願の作成を求める中で、Xが1時間にわたって辞職願を作成しない理由を明らかにせず、その挙げ句、Xが理由はないと答えたことに立腹したA課長がXのネクタイを掴んで引っ張ったが、直ちに手を離し、Xはそのまま椅子に座り込んだという、A課長が上記行為をするに至る経緯を全体として考察し、その態様、有形力の行使の程度及びその結果に照らしてこれを評価すると、これをもってXの権利又は法律上保護すべき利益を違法に侵害するものということはできないとして、不法行為の成立を否定しました。

この判断の当否については意見が分かれるところかもしれませんが、上司らの行為がパワハラに当たるか否か(不法行為が成立するか否か)については、行為ごとに、当該行為の具体的状況を踏まえて個別に判断されるべきものと考えます。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録