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厚生労働省

「パワハラ基本情報」裁判例を見てみよう

  • 精神的な攻撃型
  • 過小な要求型

【第50回】
配転の不法行為を超えて、上司個人の行為による不法行為を認めることはできないとされた事案

結論

科長室への2回目の配転の不法行為を超えてS看護局長個人の行為によるX科長に対する不法行為を認めることはできない。

事案の概要

Y法人が経営するH病院で手術室(後に集中治療室と統合)の科長として勤務していた看護師であるX科長が、①Y法人に対し、不当な複数の配転を行ったことと、その過程において、仕事を与えず放置する等、X科長の人権を蹂躙したとして損害賠償の支払を求めるとともに、②S看護局長がX科長を精神病扱いし、退職を強要する等、X科長の名誉を毀損した等として、S看護局長に対しては不法行為を理由に、Y法人に対しては使用者責任を理由に、連帯して損害賠償の支払を求めた事案。

判決のポイント

1.各配転の違法性の有無

1回目の科長室への配転
X科長がS看護局長との意見が合わず辞意を伝えて帰宅し、その後、約3週間にわたり病気休暇を含む休暇を取得し病気休暇取得の際に提出した診断書に「心因反応」と記載されていたことから、手術室の科長の職務を継続させることに不安を感じることはやむを得ないし、また、産業医の診断が未了であったため、現場への復帰が遅れたこともやむを得ない。1回目の科長室への配転に違法性は認められない。

透析室への配転
X科長が透析室で担当していた業務内容に照らして、その必要性を否定することはできない。透析室への配転に違法性は認められない。

2回目の科長室への配転
X科長の透析室における職を直ちに解く必要があったとは考えられず、しかも配転先における業務内容(注:公刊物では記載が省略されているため、不明)に照らすと、本件配転命令自体、合理的な必要性があったとは窺えず、配転命令権の裁量の範囲を逸脱したものであり、違法というべきである。
Y法人の不法行為の態様は、3か月の間、看護師としての仕事を与えられず、科長の事務員が行ってきた事務を時折命じられる程度であって、看護師としての存在価値を否定するのに等しく、その精神的損害の程度は重い。

外科外来への配転
X科長の配置された部署は、本来、係長クラスの看護師が配置されていることが窺われるが、整形外科外来及びリハビリテーション外来には、U科長が配置されていることに加え、H病院がX科長を看護師としてどの部署に配置するかは、基本的にH病院の人事権に属するところ、上記の事情だけで、科長であるX科長を外科外来に配置することが配転命令権の濫用であると認めるに十分な証拠はない。外科外来への配転に違法性を認めることはできない。

2.S看護局長の不法行為責任の有無

S看護局長は、X科長が科長室に配属されている間、X科長が病気であると述べたり、病気であることを前提とした会話をしているが、少なくとも、最初に科長室に配転された時点では、心因反応という診断がなされており、S看護局長の口調も、当初は、原告の症状を気遣う側面を有しており、直ちに違法ということはできない。

S看護局長は、2回目の科長室への配転後も、X科長について、心因反応との診断について言及したり、「被害妄想」とか「正常な判断ができない」等と表現することがあったことが窺えるが、一連の会話の中で、これらの言葉が発せられたからといって、直ちに不法行為が成立するとはいえない。

X科長は、2回目の科長室への配転後、仕事らしい仕事を与えられていなかったことが認められるが、これだけで、S看護局長がX科長に対する個人的な嫌がらせ、退職強要目的、故意に周囲の見せしめにしたとまで認めることは困難である。

X科長のかつての部下であるスタッフに、X科長の行動を尋ねることは、看護局長であったS看護局長にとって、X科長の管理能力を知るための重要な情報であって、これらの情報を収集すること自体をもって、不法行為が成立するとはいえない。

S看護局長は、かつてのスタッフの中には、X科長からの接触について、精神的負担を感じている者がいるとの認識の下、必要のない接触を避けるよう指導していることが窺え、これらの指示をもって、直ちに不法行為が成立すると認めることはできない。

2回目の科長室への配転の不法行為を超えて、S看護局長個人の行為によるX科長に対する不法行為を認めることはできないというべきである。

コメント

上司と部下の間の人間関係が良好でない場合、上司は言動に十分注意する必要がある

本事案では、上司であるS看護局長と部下であるX科長との人間関係が必ずしも良好でなかったことが窺われますが、裁判では、X科長からS看護局長の言動が悉く同科長に対する嫌がらせ等であるとの主張がなされています。上司と部下の人間関係が良好でない場合、良好でないが故にお互いに誤解等が生じ、トラブルになりかねませんので、上司としては言動に十分注意する必要があるのではないかと考えます。

 

著者プロフィール

山岸 功宗(やまぎし よしひろ)
安西法律事務所 弁護士
2006年 弁護士登録